忍者ブログ
百鬼夜行抄 二次創作

let

伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

144

除夜の鐘が聞こえてきた。
煩悩は払えるものだろうか、いいや払えない。
テレビの行く年来る年が荘厳な寺内の様子を放送している。
年送りは寺、年迎えは神社。日本は神仏習合の国だなあ。どこが無宗教だ。
食べ終わって、器を洗いに立つ。
年の終わりに好きな人と同じものを食べて、同じ家に居る。
幸せだな。初詣はこの幸せがいつまでも続くようお願いしよう。
器を仕舞って戻ると八重子先生と絹先生が撃沈してる。
とりあえずは八重子先生を布団に入れてくるか。
ひょいと抱き上げて晶ちゃんについてきてもらう。
布団を敷いてもらって寝かせて。
戻る途中に絹先生の部屋に立ち寄り布団を敷く。
火鉢の火は、うん、落ちてるね。
戻って絹先生を回収。晶ちゃんは今回はいいと断って。
そっと布団に横たえ頬をなでて布団をかぶせる。
可愛いなあ。
さてと。居間に戻ってみれば律君も晶ちゃんも仲良く沈没。
はてさて。晶ちゃんをとりあえず布団に入れるか。
先生に嫉妬されるかなぁ。
でも風邪引かせてもいかんな。と、抱えあげて部屋の布団に入れた。
律君はとりあえず起きるか試してみるか。
男は重くて運びにくい。
…駄目か、起きない。
肩に担ぎ上げて律君の部屋に連れて行って布団に押し込む。
敷いてあってよかった。
食卓や床に散乱したお酒やつまみを片付けて、正月を迎えるようにする。
うん、こんなものだろう。
さてと、俺も寝るか。
火の始末の確認と、戸締り。
昼に寝かせてもらったおかげで後始末が出来る。
寝間へ行って布団にもぐる。
シーツが一瞬冷たい。すぐに温まるのはいい綿だからだな。
本日はこの家での久々の一人寝だ。

拍手[1回]

PR

143

ご飯のとき山沢さんは"お父さん"のおかずに何かを足したりしているのを見る。
嫌いなおかずを母に見えないようこっそりと移動させてるらしい。
山沢さん自身が持ってくるのに、絶対に赤い魚を食べないのが面白い。
"お父さん"は嬉しそうにそれを食べる。
確かに母が買ってくる魚より美味しい。
でも山沢さんは母が作る肉料理を食べるほうが好きみたいだ。
沢山のお刺身や魚料理が出るときに山沢さんだけ母の作った肉じゃがが有ったりする。
そういう時、魚を料理したのは山沢さんだ。
見ているとどこか山沢さんは母が好きなんじゃないか、と思ってしまう。
母はああいう人だから受け入れてるのかな。
祖母が何も言わないところを見ると問題はないんだろう。
泊まるようになって3ヶ月くらいになるけれど、母を先生と呼ぶのも変わらず、
敬語も崩さないのに、どこか狎れた雰囲気があるときがあって。
そういう時、祖母が指摘する。
親しき仲にも礼儀あり。
結構難しいよね。
母もつい山沢さんに甘えているようだ。
トイレットペーパーや洗剤を買いに行かせたりする。
すると後で母が祖母に叱られている。
山沢さんは、母が頼むと何でも聞いてしまうところがあるらしい。
母と一緒に買物へ行って重い荷物を持たされて帰ってきたり。
"お父さん"はほっとけ、というけど、いいのかな。
うちの鳥どもは山沢さんを気に入っている。
和菓子をくれるし、司ちゃん用のお酒が探さなくても沢山あるのもいいみたいで、
すっかり手なづけられてるようだ。
どうも山沢さんはうちの有象無象が見えてるらしい。
一人で寝られないのはそれが原因なのかも。
青嵐のことは知っているのだろうか。
12月になりお教室も年内のお稽古が終了して、山沢さんが来なくなった。
何かいつもいる人がいないのは変な気がする。
母も少しさびしそうだ。
話のついでに山沢さんの年を聞いた。
てっきり母と同じくらいか少し上だと思っていたから驚いた。
僕を子供扱いするし、見られても平然としているからてっきりそうだと。
開さんが来たから、いくつに見えるか聞いてみた。
20代って開さんは思ってたらしい。
祖母が開さんのお嫁さんに、なんて言い出したけど開さんが断った。
ホモに見えるから。って想像したら面白くて、凄く笑った。
見えるよね、絶対そう見える。
開さんと抱き合ってる姿とかキスしてる姿とか想像しちゃって、ツボに入った。
母が呆れたような顔で見ている。
翌日、祖母から大学に電話があって早く帰るようにと言う。
急いで帰ってみると今日はすき焼きだからって言うんだ。
松坂牛を山沢さんが送ってくれたらしくて、凄くやわらかくて美味しくて幸せだった。
母はいつもこんなのを山沢さんと食べてるらしい。
日曜に大掃除を手伝ってお昼ご飯を食べているとテレビで築地が映った。
人多いねー。
ぼんやり見ていたら母が山沢さん、と言った。
映ってる?
母がテレビの一角を指差す。本当だ、山沢さんだ。
よくわかるなあ、こんなに人が一杯なのに。
テレビに映る山沢さんは近くの人と何かを投げ合っていて元気そうだ。
母の顔がほっとしたものになっている。
大掃除の続きをしていると雪。寒いなあ。道理でバケツの水が冷たいはずだよ。
いつもこんな冷たい水で料理してるんだからあの手なんだよな。
あれ、でも今年は痛いって言わない気がする。
山沢さんが手伝ってるからかな。
でも山沢さんの手はあまり荒れてそうじゃないなあ。
翌日、今日は休講だからと言うと買物に借り出された。
毎年のことだけどいろんなものを母は買ってすべてを料理する。
今年はいつも買わないようなものを買っていて、珍しいなと思うと山沢さんの分と言う。
お正月、来るのか。
何か母が浮かない顔をしている。
買物を終え、車に積み込んで運転する。
母は何か上の空で話しかけても返事がない。
どうしたんだろう。
荷物を降ろしてバイトに行く用意をする。
年末は時給が高くて良いね。

拍手[1回]

142 -律-

山沢さんは僕より力があるらしい。
そして着物姿が決まっていて格好良く、知らなければ男性だ。
ちょっと背が低いけれど。
でも母よりは少し背が高いのかな、並ぶとわかる程度に。
母に呼ばれてはすぐに指示を受けて何かをしている。
食事の仕度だったり、掃除だったり。
祖母にお客様なのにいいの?と聞くと良いんだという。
いつも母や祖母が立ち働いているとき、山沢さんも手伝っている。
食事も普段の僕たちと同じご飯を食べていて、
まるで家族のような扱いを受けていて、不思議だ。
司ちゃんはうちに来てもお客様扱いなのに。
いつの間にか開さんや、晶ちゃんとも仲良く話していて不思議だ。
先日祖母が月謝袋を開いてる時に居合わせたけれど、
山沢さんだけ多くて、なんで?と聞くと居候料と月謝だという。
そんなの貰ってたんだ、と言うといらないといったんだけど、と母が言う。
でもたかが稽古事なのにそんなに払えるなんて凄いなぁ。
僕のバイト代全部より多かった。
そういうと、母がクスクス笑った。
「あら、山沢さんとお食事に行くと2、3回でこれくらいよ」
「ええっ?そうなの?」
「前に旅行行ったでしょ?あれも一泊で二人でそれくらいらしいわよ」
「…それって山沢さんのおごり?」
「そうよ」
「うちの経費の分は別に領収書切ってもらったみたいだけどね」
「そうそう、ツインの一番安い部屋じゃなかったかしら」
「なんでそんなこと?」
「宿泊費があまり高いと税務署から調査が入るんですってよ」
「へー。山沢さんってそんなの詳しいんだ?」
「役員さんだから知ってるんじゃないの」
よくわからないや。
「それに山沢さんはもう人を教える資格持ってるのよ」
「あ、そうなんだ? あの人優しいから教えるのはいいかもね」
「優しい…怒らせると怖いわよ?」
「怒らせたことあるんだ?」
「本当に怖くてねぇあの人…」
母が怖がるくらいだから、よっぽどなのだろう。
意外と僕の母は強くてこんな仕事をしているからか揉め事には強い。
「でもこの間お母さん、山沢さんを踏んでなかった?」
「あらやだ、あんた見てたの?」
「絹?」
「山沢さんが肩凝ったから踏んで欲しいって言うから踏んであげたのよ」
「肩こりで胸も踏むの?」
「よく判らないけど気持ちいいんですって」
僕はそんなに肩が凝ったことがないから乗って欲しいと思ったことはない。

拍手[1回]

141 -律-

「ありがとうございました」
教室の生徒さん達が帰っていく。
それと入れ違いに来る生徒さんもいる。
「こんにちは、律君」
山沢さんだ。
「こんにちは、今日も暑いですね」
「いやぁほんとに」
「あら山沢さん、いらっしゃい」
「こんにちは、お邪魔します」
「水屋、お願いできる?」
「はい」
母に水屋を任されているようで、すぐに茶室に入られる。
以前は母と祖母が交代で食事や休憩を取りつつ教室をしていたけど、
最近は山沢さんがお昼の早いうちに来て後始末と、次の用意などをしているらしい。
その間に祖母と母がお昼を食べて休憩をする。
教室が終ると以前は4人で食事していたのが5人になり、
夕飯の支度や後片付けを手伝って泊まって行かれる。
「山沢さんってなんでいつも泊まってくの?」
と母に聞いたことがある。
「あぁ、山沢さんねえ、うちから遠いのよ。だから」
「どれくらい?」
「スムーズに乗り換えて1時間半かしらね」
「えっなんでそんなとこからうちに?」
「紹介されたらしいわよ」
「へー、そうなんだ?普通近所に行くよね。教室がないくらい田舎とか?」
「そんなことないでしょ、あの人築地に住んでるのよ」
「あっちなら沢山あるのになんでなんだろう」
「希望の時間帯とか、曜日とか、どこまで教えるかとかそういうので決まるのよね」
「ふーん」
というわけではるばるうちまで来て習っている。
泊まるようになったのは祖母から着物の仕立を習うためだったらしい。
それからずるずると休み前に泊まるようになったようだ。
先月は山沢さんは母と京都に旅行に行った。
女性だと僕は知っていたけど、あの格好で母と旅行では噂も立つよな、と思った。
お茶の勉強会だといってたけど。
その後も展覧会だ、なんだと母と山沢さんが出かけて行く。
秋の初め頃には母が山沢さんの家に泊まりに行ったりして、随分山沢さんと親密らしい。
青嵐は気にならないようだ。
祖母は母が旅行だお泊まりだというと教室が大変なようで僕を使う。
生徒さんたちは噂好きで母と山沢さんが不倫の仲じゃないかとか、
どうでもいい事を耳に入れてくれる。
山沢さん、すっかり男の人と思われてるよね。
うちでくつろいでる時は胸が見えたりしてやっぱり女の人だとは思うけど。
というか隠して欲しい。
僕だって一応男なんだから、お風呂上りに浴衣をざっくり着るのは勘弁して欲しい。
まだ司ちゃんのほうが隠してくれて助かる。
冬になりつつある頃気づいたんだけど山沢さんは母と同じ布団で寝て居るらしい。
山沢さんに聞くと、一人で寝るのが嫌いなんだそうだ。
一人暮らししてるのに?と思った。
そしたら一人住まいの一人寝はわかってることだけど、
人が居る家なのに一人は寂しくて嫌いなんだって言ってた。
祖母と一緒に寝たこともあるらしい。
山沢さんは結構寝相が悪い、と祖母が言う。
寝ぼけて抱きつくんだそうだ。
だから僕は山沢さんを起こしに行っちゃ行けないらしい。

拍手[1回]

140

「ええ、好きですよー」
こういうときはさらっと返すべし!
「やっぱりー」
うん、酔ってるなー。
「晶さんだって絹先生のこと好きでしょう?」
「あー、うん、おばさんって憧れだよねー。女としての」
「家事万全、旦那さんを愛して家を守る、理想ですね」
「あらあら、晶ちゃんとも仲良くなったの?」
っと先生が風呂から上がってきた。色っぽいなぁ。どきどきする。
むくり、といじめたい心が動いて、いけない、と治める。
「おばさーん、山沢さんがおばさんのこと好きだってー」
酔っ払いは困るな。
「あーおばーちゃん、この歌手私好きなのー」
テンション高い(笑)
「山沢さん、半襟。つけてあげるわ。いらっしゃい」
ああ、なにか言いたそう。
長襦袢と半襟を持って先生のお部屋へ。
入るなり言われた。
「晶ちゃんに手を出しちゃ駄目よ…」
あ、嫉妬か。可愛いな。
思わず引き寄せてキスしてしまった。
「可愛いこといいますよね、先生」
まだ乾ききらない髪を撫でる。
「あら?山沢さん、もう冷えてるのね」
…嫉妬はどこへ行った?
「私は風呂を出たら5分でさめますからねえ」
というと火鉢に近い所に私を座らせてくれた。
裁縫道具を出してくる。
2枚あるから、と私にも針と糸を貸していただいて半襟を付ける。
さすがに先生は手早い。
私の分をつけて、自分の分をつけて、律君の分もつけてしまわれた。
「晶さんには着せないんですか?」
「あら、そうねえ。ちょっと待ってて」
暫くして、長襦袢と半襟を持って戻ってきた。
ちくちくと縫い付けて、ハンガーにつるから後のをもってくるよう言われる。
吊り下げて並べ、二人で居間に戻った。
「ああ、戻ってきた、そろそろおそば、作らないかい?」
「あらそうね、もう作らなきゃいけないわね。山沢さん、来て」
はい、と後を付いて台所。
おそばを茹でて、天麩羅を…。
「お母さん、数が足りないわ」
「えぇ?」
ひいふうみい…。
「あ。晶さんの分が数に入ってないんじゃないですか」
「あらららら。どうしましょ」
「誰かニシン食いません?あれ2尾入なんです」
「じゃ私がいただくわ」
決まった決まった。汁を少し鍋に取り分けてニシンを温めて、乗せる。
「律ー、晶ちゃーん、取りにきてくれる?」
と先生が呼び、そばを食卓へ。
「あれ、天麩羅じゃないのがある」
「それはお母さんと山沢さんだよ。あんた七味は使う?」
「僕はいらないけど」
「晶は?」
「私もいらないー」
私の前に七味の小袋が3つ。
全部入れて、頂きますをしてすする。
「あら、意外と美味しい」
先生が小声で言った。意外ってなんだ意外って(笑)

拍手[1回]