「一服したらお稽古するよ」
八重子先生がそう仰る。
「用意は…」
「朝ちょっとお稽古したからね、炭だけ用意すればいいよ」
「わかりました」
三人で暫くおしゃべりをして。
それから先生と炭の支度。
「今日はお薄とお濃とするわね。忘れちゃってるところ有るかもしれないから」
「はい、お願いします」
お稽古を一くさりやって、幸い間抜けなことはせずにすんだ。
水屋などを片付けたあと先生がお風呂に入る、と言う。
「その指で?」
「やめときなさいよ、傷口開くよ」
「でも汗かいちゃったもの」
「うーん、じゃ一緒に入りませんか?」
「そうしなさいよ、山沢さんに洗ってもらいなさい」
「一人で入れるわよ」
「ダメですって。洗ってあげますから」
「じゃ悪いけど…」
脱ぎにくそうにしているので着物と帯を脱がせ風呂場へ。
襦袢や肌着を洗濯籠へ入れて風呂に入る。
身体も頭も優しく洗ってあげた。
まぁちょっと胸を触ったり股間に指を滑らせたりキスしたり。
泡をすべて流し、軽く拭いて二人で風呂から出る。
む、浴衣が一枚しかない。
ここは先生に着せるべきだろう。
ないもんはしょうがない、と裸で風呂から出たところに律君が帰ってきた。
なんか先生が慌ててる。面白い。
笑ってたら先生に叱られた。
「横着して着ないんだもの。襦袢でも着たらって言ったのに」
着替えて居間に戻ったら先生が律君と八重子先生相手に喋ってる。
「あぁ、あんたねぇ、律も年頃の男なんだからもうちょっと気をつけなさいよ」
「ははは、すいません」
律君がこっち見れないでいる。
若いなぁ。
「はい、先生、手、出して」
「ん?」
「ちょっと血がにじんでるから」
先生の指から絆創膏を外し、湿したガーゼで拭き取る。
清潔にしてハイドロコロイド材で密閉した。
「一番痛くない方法で様子見ましょうね」
ごみを捨てて八重子先生からお茶を貰って一服。
もうちょっとしたらお夕飯の支度をする、と先生。
律君は要らないらしい。
旅行に行くとか。
彼女と?と思えば近藤君らしい。
はよ彼女作ればいいのに。
律君がそろそろ用意してくる、と部屋を出て行った。
この家の連休中の予定は律君が旅行に行くくらいのものだそう。
孝弘さんいるから食事がね。
ということで夕飯作る時間だ。
先生と台所。
指示を貰っていろいろ煮炊きをする。
味見。
うん、先生の味だ。
ことこと炊いてるとといい匂いがして、孝弘さんが台所に顔を出す。
先生が笑ってお饅頭を渡してる。
なんかいいなぁ。
最後に俺の分の野菜炒めを作って八重子先生と配膳。
さて食事だ。
煮物がちゃんと先生の味になってて美味しい。
律君はご飯を作ってる間に出発の挨拶をして行った。
なんか心配になるのはトラブル体質だからだな。
孝弘さんは饅頭食べたのに勢いよく食べる。
平常どおり。
GWというがこの家は平穏で落ち着く。
「お母さん、ちょっとー」
「あら姉さん、いらっしゃい」
「どうしたんだい?」
環さんだ。どうしたんだろ。
「こんばんは」
「あぁ山沢さん、今晩は。律は?」
「旅行なのよ~」
「あんたもご飯食べる?」
「あ、いただくわ」
お茶碗とお箸を取りに台所へ立つ。
「あら」
お茶碗を先生に渡してご飯をよそってもらってお箸と共に環さんの席へ。
「ありがとう」
暫く食べてやっぱりお母さんのご飯美味しい、と環さんが言い、先生が笑う。
「それ、山沢さんが作ったのよ」
「ええっ? ってなんであんたが作ってないのよ」
「指、ちょっと切っちゃったの。ほら」
すけて見える傷口に環さんが引きつってる。
「へぇ~、環さん、傷とか見るの苦手ですか」
「あら、私も苦手よ?」
「先生はわかってますって」
「山沢さんあなた平気なの?」
「だってこれ山沢さんにしてもらったんだもの」
「仕事柄結構さくさく切りますし。何針とかも結構ありますよ」
「そうねぇ、山沢さんの手、傷だらけよねえ」
「年々治りは悪くなってますけどね」
なんて話をしてご飯を終えて洗いに立つ。
環さんはその間に八重子先生とお話してるようだ。
あー、八重子先生がなんか怒ってる。
こっちきた。
「山沢さん、あっちの部屋の鍵かしてくれないかい?」
「あ、いいですよ」
ごそごそと探って渡す。
「環さんと喧嘩ですか」
「そういうこと。じゃあとは頼んだよ」
「はい」
苦笑して洗い物を終えて戻る。
「あらお母さんは?」
「出て行かれましたよ」
「そう…困ったわね」
「なんか盛大に喧嘩されてたようですが」
「うん…姉さんが年寄り扱いしちゃったのよ…」
「あーそれは腹立つかもですね。あ……そうだ、ちょっと失礼」
「どうしたの?」
「あの家電話ないんですよね。俺の携帯預けてきます」
ま、様子見がてら。