少し温まってから先日の着物を縫う作業をする。
夕飯をはさんで身頃を縫い終えた。
と言うことで片付けておやすみなさい。
明日は…お稽古だけか。さびしいな。
先生の泣き声聞きたいなぁ。
悲鳴とか。
八重子先生にはこんなこといえないぞ。いくらなんでも。
まさか相談とかしてないだろうな。先生。
などと思いつつ熟睡。
翌朝出勤して、仕事をして終えて先生のお宅へ。
生徒さんのお稽古が終り次第、さっと用意される。
「じゃ山沢さん、律が帰るまでお留守番お願いね」
「はい、お気をつけて。楽しんできてください」
水屋を片付けて居間でくつろぐ。
しばらくして電話。
取ると律君。
『あれ?山沢さん? 母は?』
「お芝居行かれたよ」
『あ、そうか、今日だった…遅くなりそうなんですけど父の食事、何か聞いてます?』
「いや律君にまかせてあるからと。なんだったらピザか何かとろうか?」
『あー…お願いします』
「孝弘さん、ピザ何枚くらい食べるかな」
『えーと、3枚、いや4枚かな』
「わかった、5枚頼んでおくよ。私も食べるしね」
『お手数かけます』
どうせだからいろんな奴頼もう。
孝弘さんの部屋に顔を出して一応どれがいいか聞いてみた。
やっぱりどれでもいいらしい。
ピザをおかずにご飯とか言い出しそうだったがそれは大丈夫なようだ。
5枚注文して暫く待つ。
を、きたきた。
食卓に広げると匂いに釣られたか、孝弘さんも来た。
全種類から1カットずつ抜いて好きなようにどうぞ、と食べさせる。
しかし沢山食べるなぁ。
綺麗に食べ切ったようなので手拭きを出した。
ちゃんと手を拭いてから部屋に戻っていったところを見るに先生の躾の成果か。
箱を片付け、食卓を拭いて台所へ。
布巾を洗った。
さて。この静かな家で先生を待つのか。
多分9時半くらいに帰りの電車だろうし。
その頃には律君帰ってくるのかな。
先日途中にした繕い物をすることにして時間を潰す。
時計の音だけが聞こえる。
丁度の時に鳴る音に時折手を止めて。
まだこんな時間かと。
カラカラと玄関の音がする。
「ただいま」
律君か。
「おかえりなさい」
「すみません、遅くなっちゃって」
繕い物があと少しだからそれが終ったら帰ることにしよう。
ちくちくと縫う。
「ただいまぁ~あぁこれ、絹!」
あ、帰ってきた。っておい。
ふらふら~っと俺の前に来たと思ったら抱きついてキスしてきた。
「お母さん!?」
ああ、律君に見られたよどうしよう。
つーか痛い、針刺さった。
唇を離して肩に顔を埋めた、と思えば寝息。
「律君、ごめん、鞄とってくれる?」
鞄の中から10徳ナイフを出す。
ペンチにセットした。
「悪いけどこれで抜いてくれるかな、針」
手の甲貫通しちゃってるよ…。
律君がプルプルしながら抜いてくれた。
はい、と八重子先生が絆創膏を貼ってくれる。
「それで、これどういう状況ですか、酒臭いんですが」
「お芝居の帰りに食事に行ってそこでお茶頼んだらねぇ。
店の人が間違って絹のグラスがウーロンハイだったみたいでねえ。知らずにぐーっと」
あー、泥酔ね泥酔。
「相変わらず酔っ払うとキスしてきますね」
「だからあんまり飲まないようにしてるのにねえ」
「こないだ開さんにしようとしてましたよ。面白かった」
「…お母さんキスする癖あったんだ?」
「結構キス魔だよ。寝ぼけてるときとか」
「山沢さん、あんた抱きつく癖あるだろ」
「あー、年末でしたっけ、八重子先生を布団に連れ込もうとしたらしいですね」
「絹に聞いたの?」
「いつだったか聞きました、凄く笑われましたよ」
「…僕に山沢さんを起こしに行かせないの、それでだったの?」
「前に環さんも引き寄せたことが…」
「ほんとあんたら二人は…律はそういう癖はないとは思うけど」
「うーん、そこまで飲んだことないから」
そんな話をしつつ先生の帯を解いて紐をほどき肌襦袢の紐まで全部抜く。
パジャマに着替えた八重子先生が絹先生の寝巻きを取ってきてくれた。
一気にまとめて全部脱がせ、寝巻きを着せる。
前をあわせるには…どうしよう。
背中にマジックベルトをあてがい、仰向けに寝かせて前をあわせてとめた。
これなら苦しくもないだろうしほどけないしいいかな?
「それでなんであんたここにいるんだい?」
「僕がさっき帰ってきたから。僕が帰るまでってお母さんが言ったんだって」
「で、これ縫い終えたら帰ろうと思ってたんですよね」
「もう泊まって行ったらいいよ」
八重子先生が絹先生の着物を片付けながらそう仰る。
甘えることにした。