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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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284

孝弘さんが食べ終わって台所へ食器を返し、洗い物を。
片付けて居ると先生が後ろに立つ。
「どうしたんですか?」
「さっきはごめんなさいね」
「なにがです?」
「お稽古。厳しくしちゃったから」
「普段がこうだから厳しくなるんでしょう。馴れ合っちゃいけない、と思って」
「わかってくれるの?」
そっと先生の手が背に触れる。
温かみを感じる。
「それくらいはわかってます。それに…。
 内弟子が花月で怒られてちゃ様になりませんもんね」
「そうよ、そうなのよ。だからつい」
洗い物が終って手を拭いて居間に戻る。先生も横に。
…お酒、持ってきてた。
「飲むでしょ?」
先生が八重子先生に、その瓶を引き取って俺が先生に注いでそのまま俺のぐい飲みにも。
一口いただく。
う、辛口かこれ。
「お酒、どうしたんです? これ300mlじゃないですか」
いつもこの家にあるのは一升瓶だ。
去年沢山買ったやつとか、料理用とか。
「昨日帰り道の酒屋さんでね、フェアしてたのよ。美味しかったから買っちゃったの」
「先生が飲むくらいならこっちのほうが味がへたれないんでいいんでしょうね」
先生の杯が空いたので注ぐ。
八重子先生も美味しそうに飲んでいる。
うん、やっぱり二人とも辛口がすきなんだよな、俺に比べりゃ。
「あぁ、おいしいわ」
「あんた飲まないのかい?」
「…取ってきていいですか、別の酒」
「あら、口に合わなかった?」
「辛くて。むせそうです」
律君が通りすがりに笑ってる。
しょうがないじゃないか。
台所から割りと甘口の酒をコップに注いで戻る。
「あら、コップ酒? 飲みすぎないでよ」
ゆっくり飲んでると八重子先生があくび。
「先に休ませてもらうよ」
そういってお部屋へ。
それじゃ俺らも呑み終わったら寝ようか、と話す。
ゆっくり飲みながらニュースを見る。
「あら、首都高で火事?怖いわねぇ…」
ゴツい火事だな、大丈夫だったのかな、あの辺の奴ら。
律君が顔を出して戸締りはしたから、と言う。
「そう、ありがと。おやすみなさい」
「おやすみ」
律君が部屋に戻るのを見て少し俺にもたれてきた。
「後二口ほどですね、飲んで寝ますか」
「そうね」
くいくいっとあけてしまわれて、先に洗顔してくるという。
火の始末をして俺も部屋へ入れば先生が着替えている。
化粧を落としてトイレも済ませたようだ。
俺も寝巻きに着替え、布団を敷いた。
上に座ればするり、と身を寄せてくる。
ふふ、可愛いな。

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283

翌朝仕事をしてるとメール。
今朝からの雨で梅が散ってないか心配、と言う。
散ってたら散ってたでどこか食事でもしましょう、と返した。
一応休み前ってことでそれなりに荷物は動く。
仕事を終えて飯を食って帰宅。
ざっとシャワーを浴びて先生のお宅へ。
挨拶をして水屋へ。
湿度が高いなぁ、やっぱり。
玄関先の雑巾とタオルを取り替える。
「こんにちは、山沢さん。遅れたかしら」
「ああ、小野さん、こんにちは。まだ余裕ですよ。タオルどうぞ」
「ありがとう、酷い雨ねぇ」
雨ゴートを軽くはたいてハンガーに。
10分ほどの間に残りの4人が来た。
やった、俺抜きだ。
時間になり先生が来て先日の花月の復習。
水屋に篭っていたら引っ張り出された。くそう。
亭主を引いてしまった。
がっくりしつつ亭主を務める。
なんとか間違いもなく花月が終わった。
抜けて水屋にまた避難。
「次回のお稽古日は濃茶付をしますからね」
うーん、濃茶付は難しいんだよなぁ。
「じゃ今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」
玄関先で皆さん雨ゴートをまとって足元をカバーし、雨の中帰って行かれる。
ん、台所からいい匂い。
「山沢さん、あなたこっちきて」
茶室に呼ばれた。
「二人だけど今から濃茶付花月するわよ。用意しなさい。あなた亭主ね」
うっ、と半歩引いたら睨まれた。
渋々座って挨拶をする。
月と花のみの札の折据を使って濃茶付の稽古。
札を引く意味はなく交互に花と月を繰り返して仕舞い花を先生がして、
そこから終るところまでを俺がした。
何度か叱られて。
「ダメよ、こんなので間違ってちゃ。あなた教える立場にこれからなるんだから」
「すいません」
「最低この二つは教えられるくらいちゃんと覚えなさい」
「はい」
人の気配。八重子先生が部屋に来ていた。
「絹も中々覚えれなかったものねえ、花月は。私だって且座なんかは悩むね」
「することが多くて。勉強会でお稽古するけど私もたまにわからなくなるわよ」
「基本だからね、八畳は。まずはこれちゃんとできるようにね」
「中々覚えられないです」
「花月百遍朧月ってね、5年10年かけてやっと身につくからね」
「聞香は茶碗と逆に回すくらいしか記憶にないです…且座は」
「あんまりやらないからねぇ、あんたが来る日は」
「今度上級の日に来なさい、混ぜてあげるわよ」
「い、いや他の方にご迷惑ですからっ」
「あら、他の生徒さんだって最初はそんなものよ」
「そうだね、来週の月曜、来なさい」
「うぅ…わかりました」
「見学だけにしてあげるから」
「あ、それなら」
ほっとして参加表明する。
「さてと、ご飯の支度、続きしてくるよ。山沢さんは水屋片付けとくれ」
「はい」
「絹は台所に来てくれるかねぇ」
「はいはい」
手早く水屋を片付けて茶室も片付けた。
「山沢さーん、そろそろご飯よー」
よし、こんなものかな。
今日は何だろう。
きっと美味しいものだろう。
食卓に着く。
生姜焼きと八宝菜、お味噌汁、ごはん。
付け合せはきのこのバター炒めか。
お味噌汁は大根だ。
きぬさやも入っている。
おいしいなぁ。
先生は俺の食べてるのをみてニコニコしている、が。あの笑い方は…。
「…先生何に何を入れました?」
「うふふ、わからないならそのまま食べちゃいなさいよ」
いいけどね、うまいし。
綺麗さっぱりすべて食べ終わる。
今日の隠してあるものは八宝菜にナスが入ってたらしい。
律君が首を捻る。
「紫色のものないよ?」
「皮剥いて入れたのよ。見えなきゃわかりにくいでしょ」
なるほどなぁ。

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282

翌朝出勤ってやっぱり水曜だなぁ。
お客さんが来ないし売れないし、本当に今日なんて休みにした方がいいね。
いつもなら先生といちゃいちゃ出来るのにな。
もっと忙しけりゃ仕方ない、と思うんだけれどこればっかりは。
稼がなきゃ会うこともできないからな。
仕事が終って、さぁ今日はどうしようか。
と、帰ったら先生が部屋にいた。
「…えーと、ただいま? なんでおられるんですか」
「おかえりなさい。さっきお友達と東京駅でお茶してきたのよ。
 ここまで出たついでだから、だめよ、お掃除ちゃんとしないと」
「う、一応先週掃除機はかけたんですが」
「戸棚の上とか拭いてないでしょ。あとお布団干しちゃったから後で取り込みなさいよ」
「はい。ありがとうございます」
「で。お昼は食べたの? まだなら何か作るわよ」
「あーまだです。何か食いに行きますか」
「ダメよ、お野菜食べないんだから。一緒にお買い物行きましょ」
「んー、いやメシ食いに行ってそのままホテルであなたを食べるほうが」
先生の拳骨が。
「せんせ、せめてパーでお願いします…痛いですってば」
そのままぐりぐりとこめかみを押されて諦めて買物に出ることにした。
「着替えるからちょっと待ってて下さい」
「あら、そのままでいいわよ。すぐそこでしょ」
「あーですがこの格好であなたと並ぶのは。匂い移りもしますし。すぐですから」
ささっとその辺にあったカーゴパンツとシャツを着て、パーカーを取る。
「そういう格好初めて見るわね」
「あなたに逢うときはいつもそれなりの格好してますからね」
お買物に一緒に出て、菜っ葉ものをメインに色々と先生が買う。
何を作る気だろう。
お肉は少し。
帰宅して手を洗って先生は割烹着をつける。
「お野菜洗って頂戴」
先生はフライパンを用意してごま油を落とし、どうやら野菜炒めを作るようだ。
同時進行で大根葉のお味噌汁。
人参葉の胡麻和え。
小松菜の煮浸し。
作ったものの半分は冷蔵庫へ。
「これはお夕飯に食べてね」
ご飯は買物前に先生が仕込んでいたので丁度炊けた。
いただきます。
あ、少し塩強めにしてくれてる。
たっぷりの野菜。少しの肉。
うまいなぁ。
「作るの面倒って思わないんですか?」
「思うときもあるわよー、でもおいしそうに食べてくれるから」
「あー孝弘さん、ほんとうまそうに食べますよね」
「あなたもね。ご飯粒ついてるわよ」
っと手を伸ばして唇の横についてるのを取られて、それを食べられてしまった。
そのしぐさにちょっとドキッとして。
「このまま泊まっていきませんか」
「明日も朝からお稽古よ。それに…明日うちに泊まるでしょ?」
「でもあなたのおうちではそんなに強いことは出来ないから」
「なにするつもりなのよ…」
にっこりと笑ってると怖がられた。なんでだ。
「ご飯食べたら帰るから。だめよ」
「仕方ないなぁ」
食べ終わって、ちょっとお腹が落ち着くまで抱っこして。
抱っこくらいさせろ、とごねたわけだけど。
懐に居るとやはり先生も少しはドキドキするらしくて肌がほんのり紅潮している。
それでも流石の精神力。
「もういいでしょ、帰るわ」
そういって帰っていってしまった。
残念。
やれなかった気持ちを落ち着けるためにと縫い物をする。
ちょっと疲れてきた頃、仕舞って布団を取り入れお昼寝を。
夜、目がさめて作り置きしてもらった野菜類で晩飯を済ませて寝なおした。

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281

天麩羅久しぶりかも。
ほんの少しお酒を頼んでキスやあなご、メゴチ、エビ。
他色々、野菜も色々。結構しっかり食べて満腹に。
「あぁおいしかった!」
「うまかったですねー」
「でも胃もたれしないのよね」
「良い油使ってるんでしょうね。さてと、送りますよ」
「いいわよ、お昼間だしあなた明日もお仕事でしょ」
「あ、そうだ、思い出した。水曜日仕事あるんですよ、だから明日は帰りますから」
「あらそうなの? わかったわ」
なでなで、と俺の頭をなでてくる。
「なでるの、癖ですか?」
「つい撫でちゃうのよね、なんでかしらね」
「俺を下に扱いたい心の顕れ?」
「そうかも?」
「はいはい、いいですよ。夜以外は」
ぽっと頬を染めている。可愛い。
駅についてお見送り。
ばいばい、と車窓から手を振る先生。
さて。帰って寝るか。
帰宅してちょっとあれこれ家事をして、睡眠。
夕方腹が減って目覚める。
散歩がてらコンビニへ行き、帰って食べてまた寝る。
早朝出勤して仕事。
今日は暇そうだなぁ。
仕事中にメールを打つ。
春だから鯛を持っていこう。
あったかいなぁ。
途中で上着を一枚脱いで仕事する。
少し波が高いから入荷は少ないけれどどうせ火曜日だ。
そんなに買われないから良い。
ゆったりと仕事が終って帰宅する。
風呂に入り着替えて。さぁ稽古に行こうか。
電車に乗ってると先生からお電話。
見学者がくるの忘れて生菓子が足りない?
はいはい、と数を聞き途中下車して和菓子屋へ。
立ち寄った所は上生菓子が6種類。
足りないのは5個。
全種1個ずつお願いし、更にその他の菓子をいくつか買った。
ゆったり時間がある中到着して先生に菓子を渡す。
「あら、こんなに沢山?」
「孝弘さん、こういうのもお好きでしょ?」
「そうなのよねぇ」
水屋に入って支度をしよう。
あ。そうだ。
「先生、今日の見学の方はどうされます?」
「ああ別に用意は要らないわよ、椅子だけ出しといてくれるー?」
「ラジャー」
人数分椅子を出して置いた。
しばらくして生徒さんたち到着。
…たち?
「今日は花月よ。折据出して」
しまった、忘れてた。
俺を特訓するの先生も忘れてたよねっ。
まずは八畳平花月、とのことで。
正客と亭主を折据で決める。
折り紙の箱みたいなものの中に表側同じ模様で裏に数字札と月・花の札がある。
一番最初に月を引けば正客で花を引けば亭主だ。
ランダムに決まるため、引いた瞬間ゲッと思ったりもする。
やはり花を引いた人がげんなりした顔をした。
お菓子をいただいてからスタート。
先生にお願いします、と言ってからお正客がお先に、と席入りする。
そのまま続いて皆さん席入り。
八畳の席入りはまだいい。スムーズだ。
さて亭主はまずは迎えつけの挨拶で総礼。
客は全員袱紗をつける。
と言うのもこの後飲む人点てる人はまたもくじ引きだから。
4畳半の中へ移動したら亭主が折据を正客の前に。
一膝斜めに向いてから水屋へ戻り茶碗を持ち点前座へ。
茶碗を勝手側に1手で割付け棗を棚から下ろして茶碗を3手で置き合せる。
水屋に戻って建水を持ち出し踏み込み畳に置いて仮座へ。
正客から折据の中の札を取り伏せて置き、折据を回していく。
亭主も取ったら折据をおいて皆で開く。
花が名乗り、全員が札を折据に入れて返してゆくが、花は数字札と変えて戻し、
数字札を持って点前をしにゆく。
「今回は繰り上げなしで」
と声がかかり、空いた所に亭主が移動する。
茶杓を取れば折据を回し、お茶が点ち次第札を取る。
月・花・松!と札通りに言うが松は今点前した人が言うことになっている。
札を戻して月がお茶を飲み、茶碗を返したら移動。
花が点てに行き、さっき点ててた人が戻って空いた所に座る。
それを3服。
最後は斜めにして折据を回し、末客は茶碗が置かれる場所より下座に置く。
茶碗が出たら札を取り今度は月だけ名乗り取りに出る。
お点前して居る人は客の方を向き折据に札をしまって同じ場所に返す。
末客は折据を取りに行き、札を返してゆく。
お茶碗が帰ってきたら総礼してお点前して居る人は道具の片付け。
お客は元々いた場所に戻る。
その間に棚に柄杓と蓋置と棗を飾り、建水を持ってバックで戻り、
最初に建水を置いた位置に座って置く。
そして四畳半の元いた席へ戻り、亭主が建水を片付け、茶碗を下げる。
正客は折据を持って亭主の取るべき場所に置く。
亭主は水次を持ち出して置いたら客の方を向いて総礼をして折据を回収。
水指に水を足して水次を持って帰ると同時に全員席を立って八畳へ下がる。
亭主が戻ってきて斜めに座ったら総礼。
亭主が帰ったら皆で福佐を外して懐へ入れ、扇子を前に置いて次の人にお先に、と。
挨拶して順々に帰っていく。
皆で水屋で挨拶するところまでが花月である。
9割がた先生の指導が絶え間なく入る。
100回やっても何か良くわからないのがこれである。
なんでやるかって?
今どういう状況でなにをすべきか、というのがすぐにわかるようになるための稽古だ。
なれてきたらゲームではある。
飲む人が3回連続で当たったりする。
急に当たってお点前なんてのも良い鍛錬だとか。
俺は平花月は何とかなるけれどもっと上のほうになるとよくわからないものもある。
3回繰り返してなんとなく、という顔を皆さんしておられる。
最後の一回は見学の方が居られて、凄い凄いーなんて声が上がっていた。
一回目見せてたらダメだったかもしれない。
お稽古を終えて生徒さん方が帰られ、八重子先生と見学の方がお話されている。
今回は先生がお夕飯か。
水屋を片付けて台所の様子を伺う。
「あら終った?」
「はい、八重子先生はまだ話しておられますよ」
「あ、今日泊まらないのよね、ご飯どうするの。もう出来てるから食べて帰ったら?」
「いいんですか? じゃお相伴させていただきます」
「嬉しそうねえ」
「やー帰って作る気にはなれませんものですから」
お台所で一人分を分けてもらいそのまま食べる。
うまいなー。
「食卓で食べたらいいのに…」
「お客様いらっしゃるのではちょっと落ち着きませんし」
「おかわりあるわよ」
ほんの少しだけ貰って食べる。
「うーん帰りたくないなぁ」
「お仕事なんでしょ? だめよ」
先生は俺の頭をわしゃわしゃと混ぜて髪型を崩す。
「なにするんですか、もー」
ぺろりと食べ終えて洗い物を。
「いいわよ、置いといて。皆が食べたときに洗うから」
「すいません」
「じゃ気をつけて帰るのよ」
「はい、ではあさって…も花月ですか」
「そうよ、復習しておきなさいね」
「わかりました」
じゃ、と別れて帰宅して、そして寝ることにした。
花月は疲れる。
おやすみなさい。

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280

もう朝だ! 仕事だ…。
幸い今日は天気がよく、暖かい。
帰ったら布団を干したい。
仕事をしているとメールの着信音。
手が開いたときに見ると先生からで、昨日のちょっと痛いらしい。
気になるようなら病院行ってください、一人じゃちょっとと言うのなら一緒に行きます。
そう返事をして様子を見る。
9時半頃、メールが来た。一緒に行きたいと。
俺の行ってる病院が良いと言うことだ。
やっぱり自分のいく病院にそういう理由でいくのは気恥ずかしいのか。
俺の家に一旦寄って待っているとのことで仕事をさっさと片付けて特急で帰宅した。
「ただいま、どうですか具合。着替えるから待ってくださいね」
「おかえりなさい。うーん、ちょっと痛いのよ…」
「出血とかありませんか?」
「それはないんだけど」
手を洗ってさっと着替えて一緒に病院へ。
「どうします?カルテ残したくなければそのように出来ますが」
「えっそんなのできるの?」
「ええ、まぁ。そんなに通わなくてもいいとかなら」
「そうしてほしいわ、だってほら通知来るでしょ、保険証の。どこにかかったとか」
「ああ、来ます来ます。八重子先生に見られても問題はないでしょうけど」
「他の人はねぇ」
「ま、更年期でって人もいますけどね、早いと俺くらいの年からですし」
「でもねぇ」
「っとここです。便宜上…飯田春子でもしますか」
「なんでもいいわ」
受付に伝え問診票を貰う。
手が止まった。
痛みの場所とかは書けたがどうしてかが書けなかったようだ。
取り上げて書き込む。
受付に渡して暫くして呼ばれた。
一緒に入って問診を受けるのを横で。
「で、心当たりのところね。これ、んー」
頬を染めている。
「遊ばんで下さいよ。素人さんなんですよ、勘弁してくださいや」
「すまんすまん、じゃ内診しようか」
「ついでにがん検診もしといてください」
「勿論だ。こんなものは一度で済ますに限る」
手馴れた様子でさっさと終えて、ちょっとした打ち身のようなものと説明された。
「がんは問題ないね、検査には出しておくけど今見たところはね。だけど…」
乳がんの検診もそろそろ受けるように、と言う。
「うちは機械がないからね、かかりつけにマンモが有るならそこで受けると良い」
ふむふむ。
俺に上半身脱げという。
ぽいと脱ぐと乳がんの触診はこんな感じでやるから、と先生に見せる。
「ま、こんなカンジね。よし、どうせだからお前もマンモ受けとけ」
「あれ痛いって聞くから…やだなぁ」
「手術のほうが痛い。それに男が受けるのに比べればましらしいぞ」
ごそごそと服を着て先に会計へ。
支払いを終えしばらくしてから先生が出てきた。
少し恥ずかしげなのはどうしたことだ。
聞けば俺にへんなことをされてないか聞かれたらしい。
あ、DVね。
望まぬセックスとか。
医者には出来る相談ってのはあるもんなぁ。
部屋に戻って色々話していると、お尻を舐められるのが困る、と言ったとのこと。
うーん…。
次回の検査のときに何言われるか。
苦笑しつつ貰った抗炎剤を渡す。
痛むようだったら、とのこと。
「そういえばお昼食べました?」
「ううん、まだよ」
「じゃなんか食いにいきましょう。何か食いたいものあります?」
「……天麩羅たべたいわ」
「ああ、家だと揚げ物面倒ですもんね」
「油の匂いも凄いでしょ」
「ああ、そうか、結構匂うか。じゃ行きましょう行きましょう」
電話で席があいてるか確認して着替え、二人連れ立つ。

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