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百鬼夜行抄 二次創作

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伶(蝸牛):絹の父・八重子の夫 覚:絹の兄・長男 斐:絹の姉・長女 洸:絹の兄・次男 環:絹の姉・次女 開:絹の兄・三男 律:絹の子 司:覚の子 晶:斐の子

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21

----絹

「ただいまあ」
帰宅して居間にいる母に声をかける。
「はい、おかえり。どうだった?」
「良かったわよー、お芝居もお食事も」
「あれ?あんたそんな羽織持ってたかね?」
「ああこれ、山沢さんのなのよ。ご飯食べて外に出たら結構冷えてて。
 家まで着て帰ったらいいって貸してくれたのよ」
敷きたとうを出し、その上で脱ぐ。
羽織を脱いで見ると羽裏は結構手が込んでいる。
「あら…織ね」
帯を解き、伊達締めをとくと胸から何かが落ちた。
母が拾ってみるとぽち袋だ。お車代と書いてあり、3万円が入っていた。
「いつの間に入れたのかしら…?」
そのまま寝巻きに着替え、衣桁に着物をかけて片付ける。
母にお芝居と食事の話をしながら。
もう遅いから、とすぐに寝ることにした。

翌昼、庭を掃除してると母に来客。
私が男性と見詰め合っていたとか、料理屋から二人で出てきたとか
夜の街を仲良さ気にくっついて手をつないでいたとか、母に言ってる。
見られてたみたい。困ったわ…。
母が私と仲のよい弟子で女性と説明してるけど…納得してもらえるのかしら。
掃除を終えて居間に戻ると、お客さんはもう帰ったみたいで、
母が山沢さんの羽織を見ている。
「いい羽織だ。この柄は何かねえ、雅楽の楽器?」
「ひちりきっていうんじゃないかしら。あらでもこの柄、お寺よねえ?」
今時こういう羽裏は珍しい。
「山沢さん、案外女遊びになれてる人なのかもしれないねえ」
「えっどうして?」
「あんた昨日ぽち袋入ってたの気づかなかったんだろ?
 贔屓の芸者の一人や二人いるかもしれないねえ」
そうなのかしら…。
嫌だわ…。
そう思いつつ、羽織を畳んでたとうに仕舞った。

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20

何度かのお稽古日が過ぎた。
今日は芝居を見に行く日である。
私の仕事時間の関係で、現地近くで待ち合わせとなる。
一旦帰宅し、シャワーを浴びて着替える。
10月に入ったから袷だ。胴抜きにしてある。中は絽の長襦袢にしよう。
お召に羽織で良いといってたからそうしよう。
先生は付け下げか訪問着って言ってたな。
楽しみだなぁ。
わくわくしつつ、家を出る。
デートだ♪
待ち合わせ場所に40分も早く着いた。
先生は携帯を持ってないからちゃんとわかる場所にいなくては。
待つ時間も楽しい。
と思ったらすぐ来られた。
付け下げにされたようだ。綺麗です、と褒めると、あなたも格好良いわ、と言われた。
時間が早いのでお茶を飲みに行くことにした。
実は先生は先日会場に行ったそうだ。
下見ではなく、展覧会が有ったという。お茶仲間とだ。
京都で私は見ているが、お茶の先生としては見てはおかねばなるまい物。
お茶仲間の付き合いも大事だからね。うん。
言い訳みたいにしなくても良いんだよ。
可愛いなぁ。
さて。手水を使ったらばそろそろ入って席に着きますか。
うん、良い席だ。出やすくて、見やすい。
今日は小さいお茶を二つ、音の出ない甘いものをいくつか持ってきている。
大きいお茶は結構残して荷物になる&ガサ音は不快。でもなんぞ欲しい。
席について軽く見回すと知った顔がいくつかあるなあ。
先生に手出しはできないな、気をつけよう。
おっと開演前のブザーが鳴った。
暗転。今のうちと手の甲にキスをする。
照れてる照れてる、うんうん。
芝居を楽しむ。
時代だなぁ…今ならばどうだろう。
師を捨てて女を取るか。それとも駆け落ちでもするか。
月は晴れても、心は闇だ…。
すっと先生が私の手を握ってきた。
その手の上に、もう片方の手を重ねる。
あーキスしたい、そう思いつつ手の甲を撫でる。
私だけにわかる声で駄目、とささやかれた。
撫でる手を離し、芝居に気を戻す。
一流の役者の織り成す世界は良いなあ。
拍手の元、終了した。余韻。
先生の手を引いて会場の外へ出ると、時はちょうど頃合、料亭へと歩く。
うん、ここだな。
「予約していた山沢です」
どうぞどうぞと通されたのは個室。
懐石の順番どおり出てくる。どれも美味だ。
楽しく食事が終わり、支払いを終えて外へ出ると意外と冷え込んだようだ。
先生がふるっとした。私は羽織を脱いで包み込む。
「袖、通して…」
着せて差し上げる。
「このまま、私のうちへ来ませんか?」
はっと先生は私を見る。
「駄目…帰らないと…」
手を握って翻意を促すが、無理そうだ。今日のところはお帰ししよう。
手をつなぎ駅へ向かう。
帰したくない。だが駅についてしまった。
先生が羽織を脱ごうとする。それを押しとどめた。
「着て帰ってください。あなたに添えない私の代わりに羽織だけでも。
 帰り道にナンパ、されないでくださいね」
頬を染めて可愛いなぁ。
じゃ、また稽古の日に、と別れた。

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19

翌日、絹先生から携帯にお電話をいただく。
食事の件だ。
京懐石があれば、という。
あのあたりだと、なだ万とかあったような気が…。
「ちょっと遠くてよろしければ辻留、柿傅、三友居などありますがどうします?」
なに、そこまでは肩がこる?了解。
いくつか要望を聞いて本日在宅か聞き、電話を切る。
会社の人にお勧めの京懐石を聞くと、そのあたりで一つ二つ出てきた。
詳細をプリントアウトする。
あの家パソコンないからなあ。律君が壊しちゃうんだろうな。
俺の使ってないノート置いとこうかな。リモートツールいれて。
仕事もそろそろ良い時間だ、帰ろう。
帰宅し、着替えてから資料を持って先生のお宅へ。
「お邪魔します」
「はいはい」
あれ?律君だ。
「ごめんなさい、母、ちょっと今出ちゃいまして」
「ありゃ。じゃあ八重子先生はおられるかな」
「あ、いますいます、どうぞ」
迎え入れてもらう。八重子先生は庭に居られた。
横まで行ってみると茶花の手入れをされている様子だ。
「ああ、山沢さん。どうしたんだい?」
芝居の後の食事の件についてとりあえず資料持ってきたのだが、
絹先生が不在なのでどうしようかと。
すぐ戻ってくるとのことで待たせてもらうことにした。
昼は暖かくて良い日和だなあ。
パタパタと足音がして、
「ごめんなさい、山沢さん、待ったでしょ?」
と絹先生が走りこんできた。そんなに焦らなくて良いのに。
そういうとこ、可愛いよな。
「時間を決めて来た訳ではないですし、気にしないでください」
もうちょっと待てる?というので待っていることにした。
八重子先生がお茶を入れてくださり、向いに座られた。
お茶が熱い…。
「町内の方で揉め事があってねえ、ちょっとばたばたしてるんだよ」
へえ、町内ねえ。
「昔うちに来てたお弟子さんと、うちの町内の方が不倫してたらしくてねぇ、
 駆け落ちだってさ」
へぇぇ!駆け落ち?
「で、なんで絹先生が?」
「昔絹に粉かけてたんだよ、その人」
あー…そういうことか。
「良かったですねえ、そんなのに引っかからなくて」
本当だよ、とかなんとか話していると戻ってこられた。
ハイお茶、と絹先生にもお茶が出る。
私のもそろそろぬるいはずだ。一口いただく。
「疲れちゃったわあ」
「肩、揉みましょうか?」
頼める?というので揉んでいると八重子先生がぎょっとしている。
「お母さん?」
あ、見た感じ男が娘の肩をもんでいるという変な光景か。
絹先生は気にせず愚痴っておられる。
「お母さんちょっと えっ」
律君が驚いている。うん、変な光景だね(笑)
胸にあるツボ押してるもんね、今ね。
「あら、どうしたの?」
うん、素だね、絹先生。どういう風に見えてるのかわかってない(笑)
肩をぽんぽん叩き、終了。
律君もただの肩揉みと気づいたようだ。用件は今日遅くなるというだけだった。
さてさて、愚痴も終わったようだし、本件に入ろうじゃないか。
メシはどこに行こうかねー。
仮の案として二件ほど見せる。ほん近くにある京懐石のお店と、ちょっと遠い店。
ほん近くの方が良いかな?と決まった。
時間は7時スタートで。早く幕が降りても喫茶店よれば30分潰せるかな。
その場で予約を取る。OK、すぐ取れた。
ということで本案件終わり。
明日のお稽古ですることなどの話をして、3時過ぎに帰った。

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18

数日後、会社の関係である芝居のチケットを入手した。
さてこれはどうしてくれよう…。
大先生の趣味なら譲っても良いな。
次の稽古のときにでも渡すか。

そして次のお稽古日…。
「お邪魔しまーす!」
早くついたから稽古場の用意をする。
「あれ、早かったね」
八重子先生だ。ご挨拶して芝居のチケットの話をする。
残念ながら趣味ではなさそうだ。
どうやら絹先生は趣味の様子、あんたら二人で行っといで、と言われた。
昼の部と夜の部のどちらが良いだろう。
翌日休みだからどちらでもいける。
夜のほうが気楽かな?芝居の前に喫茶店入って、見て、それからメシ。
「遅くなってもよければ3時始まりの部でどうですか?
 11時始まりだと食事時間が微妙ですよね?」
3時間から3時間半くらいはあるだろう。
あ……
「八重子先生。芝居の後、絹先生を食事にお誘いしても?」
「行っといで行っといで」
ケテーイ。
どこ行こうかな、メシ…。
「絹先生、食事、何かご希望はあります?
 懐石が良いとかイタリアンが良いとかステーキ食べたいとかでも結構ですが」
料亭もあの辺りならあるし、ホテル飯もできるし…。
「そうねえ、考えとくわね」
まだ日、あるしね、それでいいか。
他の人が来た。この話は打ち切り、お稽古の用意、用意。
今日は小習事復習日。さて何を振られるか…。
「山沢さんは台天目と貴人ね」
あっ、やられた、油滴と曜変が用意されてた。うぅ…。
キモい…。できるだけ直視しないように半眼でやってると叱られた。
他の方に、台天目と貴人の違いを教えておられる。
台天目は茶碗が主眼、相手は地下でも貴族でも良い。
貴人は客が主眼、高位の人をもてなすときのやり方だ。大抵茶碗は白。
ちなみに台天目は小習ではないが、違いを教えるためのチョイスだろう。
嫌がらせでは有るまい、と思いたい。
他の方は茶入荘、茶碗荘、茶杓荘などなど。
なんだかんだ稽古時間はすぐに過ぎ去る。
茶碗を丁寧にとっとと片付ける。見たくない見たくない。
水屋の片付けもして、終了。解散。

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17

そんなある日。
会社に電話がかかってきた。
オーイ飯島さんから電話ー! と会社の若いのから電話を受ける。
はいよ、と電話を取ると八重子先生だ。
今日は上級クラスの稽古日だから私は行ってないのだが、
どうやら予定していた七事式をやるのに人が足りないという。
まあ予定もないことだ、伺うことにしよう。
そんな会話をしている私の横では、ちんぽちんぽまんこーと叫んでいるのやら
早くしろコラー!と怒鳴る声が聞こえている。電話、筒抜けだってば…。
電話が終わり、仕事をする。
定時になりいったん帰宅する。着替えねば。
そろそろ単衣も秋の気配を取り入れたいなあ。
先生宅に着いたが早すぎたようだ。
まだ皆さんそろっておられないようだ。
「あらあなた、男の方?珍しいわねぇ」
おっと上級クラスは私を知らない人が結構いるんだった。
「中野さんその方女性よぉ」
知ってる人が笑いつつ紹介してくださる。
「あれ、山沢さん今日お稽古でしたっけ?」
おや律君だ。
「こんにちは、そう、朝電話いただいてね」
「だったら上生菓子は4つで良いですね…」
うんうん、それでいい。それでいい。
「あらいただかないの?」
と中野さん。好きそうだよなあ、和菓子。
呼ぶ手が見えて水屋に入ると絹先生だ。干菓子を二つもらう。
うまい。
花や炭の用意を手伝うと挨拶の声、人はそろったようだ。
本日は五事式。きっついなあこれは…。
上級クラスだとこんなのやるんだね。
本当は茶事で懐石があって春にするらしい。
夏なのに炉を開いてお稽古することがあるとは思わなかった。
来春茶事をするためのお稽古、といったところか。
炭つぐのも花生けるのもまだまだ私には難しいね。
お香、炭、花、いろいろなものを修練しないといけない。
私にとっては怒濤のように過ぎた4時間半だがさすが上級の皆さん、
するすると遅滞なく動かれる。
八重子先生によると上の方の教授だけで行えば3時間半もかからないそうだ。
確かに花月8分とか言うからそうなんだろう。恐ろしい。
水屋の始末を手伝っているとお夕飯食べていかない?
と絹先生がおっしゃるのでそれに甘える。
でも大抵、孝弘さんの隣なんだよなあ。
「山沢さん、あんな人ばかりのところで仕事してるのかい?」
食事中、八重子先生に朝の電話の時の背後の声について言われた。
えぇ、まあそういう所です。
「なにかあったの?お母さん」
八重子先生は説明しがたいようだ。そりゃ言いにくかろう。
「電話の背後が怒声や卑猥な言葉だっただけですよ」
あ、律君がむせた。
こっそり孝弘さんのおかずに魚を増し増しにしておいた。
「稽古場でそういう言葉遣い出ないようにしとくれよ」
気をつけてます、ええ。
食後くつろいでると打診された。
「あんたそろそろ真之行やらないかい?」
まだ早くないかなぁ。
「一応あんただって助講師とってるんだから早くはないよ。それに…」
どうやら研究会などは大円真以上の規定が結構あるらしい。
家庭のある人には行けないような泊りがけの研究会に連れて行く人がいないと。
そういうことなら取りましょう。取りましょう。
申請のお願いをし、明日のお稽古について申し合わせてから帰宅した。

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